シスターズ・アンカット(村上潔訳)「なぜ私たちはホロウェイ刑務所の塀に要求を掲げたのか」

2019/12/05 村上 潔

【原著(Original Text)】
◇Sisters Uncut, 2019, “Why We Plastered Our Demands on the Fence of Holloway Prison”, Sisters Uncut, October 11, 2019, (http://www.sistersuncut.org/2019/10/11/why-we-plastered-our-demands-on-the-fence-of-holloway-prison/).

ちょうど2週間前に〈ブロンズフィールド女性刑務所[HMP Bronzefield]〉〔旧ミドルセックス州アシュフォード郊外にある成人ならびに若年犯罪者対象の女性刑務所。2004年開所〕であった新生児の死亡事件(cf. →Link)は、刑務所産業複合体の暴力をさらけ出した。収監された女性は、一晩中、痛み止めや医療支援を提供されずに胎児を分娩させられた。この恐ろしい話は、刑事司法制度の構造的な残虐さを示す、数え切れないほど多い実例のほんの一つにすぎない。これらの出来事は秘密裏に起こり、人目に触れることはない。大抵の場合、刑務所内の女性たちは、ケアと保護を受けるに値する存在だと見なされないからだ。

ホロウェイ刑務所は、何世紀にもわたって、同様の国家的暴力が行使される現場だった。刑務所人口の構成では、性暴力を経験していてメンタルヘルスの問題を抱える人と、実の親によってではなく(政府/自治体が運営する)公的施設で育てられた人が圧倒的に多い。メンタルヘルスの支援を必要とする32歳の労働者階級の黒人女性、サラ・リードは、国家が課した長期の暴力を受けた末、2016年1月にホロウェイ刑務所で死亡した。彼女は子どもを失ってから必要としていたメンタルヘルスの支援を受けられずに、繰り返し虐待を受けていた。サラに対してふるわれた暴力の複層的な過程には、トラウマによって彼女のメンタルヘルスのさらなる悪化を招いたロンドン警視庁警官による暴行と、その後精神保健法のもとで精神科病棟に留置されていた際のレイプ未遂が含まれていた。彼女が亡くなったのは、ホロウェイ刑務所に3か月以上再拘留されている最中だった。サラのエピソードは、たくさんの、挙げることができないほどたくさんの事例のうちの一つだ。

2016年にホロウェイ刑務所が最初に閉鎖された際、収容されていた女性たちの多くは、ロンドンの外にある過密状態の施設へと移された。それは彼女たちを、支援ネットワーク・家族・頼り先からさらに孤立させた。ホロウェイ刑務所の敷地内で起こった暴力の傷は、いまだ治癒していない。刑務所は社会的問題を解決するのには何も役立たない。それは社会から「望ましくない者」を除去するための、たんなる管理手段にすぎないのだ。そこが暴力と搾取と虐待に満ちていることを、私たちは知っている。そしてまた、いったん刑務所制度の中に入ると、最も貧困でマージナライズ(周縁化)された女性たちの「社会復帰」が成功する可能性はほとんどないことも知っている。シスターズ・アンカットは、国家的暴力を受けて黙って苦しむのが当然であるような人間は一人もいないことを確信している。この社会が機能する仕組みと、国家が資金を配分する仕組みが、根源的に人種差別的・性差別的であることを証明するために、私たちは世間の目に触れるよう暴力を暴くことに努める。

◆ホロウェイを取り戻すための闘い

私たちは2017年にホロウェイ刑務所の敷地を占拠し、ビジターセンターで一週間にわたりコミュニティ・フェスティバルを主催した。その土地を癒しと安全の空間に変えられることを証明したいと思ったのだ。私たちは、牢獄状態に代わるものとして変革的正義の原則の活用を求めた。

現地を社会住宅ならびに女性のためのビル建設に利用するよう求めた私たちの当初の要求は、最初は区の合意を得た。しかしながら、その公約はデベロッパーの警察との連携によって脅かされてきた。その敷地を今年3月に購入した住宅協会〈ピーボディ[Peabody]・トラスト〉は、現地の建設に融資しそれを管理するため、ロンドン市長公安室(MOPAC)と連携している。シスターズ・アンカットは、変革的正義に尽力し刑事司法制度の有害性に対処する空間を創造する可能性が、この関係によって潰されてしまうと断言する。

昨日私たちは、この土地を社会住宅と、刑事司法制度の有害性・暴力への対処に取り組むための「女性ビル」建設のために再活用せよという要求を再び明言すべく、ホロウェイ刑務所の周りの壁を〔バナーで〕覆う行動を行なった。

私たちは要求の短縮版をホロウェイ刑務所の壁に貼り付けた。

◆私たちの要求

略さずに示すと、私たちの要求は以下の通りだ。

1.現地の住宅はすべて社会的賃貸とすること。

2.現地の住宅はすべて完全にアクセシブルであること。車いすでのアクセス、ヒアリングループ〔の設置〕、翻訳サービス、ジェンダーニュートラルトイレを含むが、これらに限定されるものではない。

3.現地の住宅への入居にあたっては、かつて収監されていた人々と、DV・性暴力・国家的暴力の影響を抱える人々が優先されるべきである。

4.司法省(MOJ)は、ホロウェイ刑務所の売却によって得られた資金を、さらなる刑務所建設のために使うべきではない。刑務所は人種差別的で費用が高くつく、苦痛と国家的暴力の場だ。

5.〈ピーボディ〉は、女性ビルの意思決定および日々の運用において、DV・性暴力・国家的暴力のサバイバーを中心に置くべきだ。サバイバーは、ビルの目的と運用を規定する共有価値の創造の中心となるべきだ。

6.いわゆる「女性ビル」は、以下のようにあらねばならない。

  • すべての女性(トランスならびにシスジェンダー)、インターセックス、ノンバイナリーな人々を受け入れる。
  • 単一的な空間ではなく、あらゆる特定の目的に特化したビルである。
  • 刑事司法制度が〔人に〕与える損害を理解している刑務所廃止運動団体によるサポート(とりわけカウンセリング、アートセラピー、ヒーリング、トラウマに重点を置いた取り組み)を提供する。
  • 有色人種のサバイバー、クィアの/トランスの/移民の/障害者のサバイバーといったマージナライズされた集団に対して、専門的なサービスを提供する。
  • いかなる立場においても内務省や司法省(MOJ)と連携しない、もしくは在留資格に基づいた個人へのアクセスを拒否する、という住宅条項のみ設定する。
  • 無償の保育プログラムを提供する。
  • ビル内で活動する組織は無料で〔ビルのスペースを〕使用できる。
  • 国家的暴力とDVのサバイバーたちが制作したアート作品を展示し、図書館/もの作りのスペース/キッチン/快適でアクセシブルな座席を設置する。そこは地元のコミュニティの人々が自由にくつろげる空間とするべきだ。

私たちはまた、〈ピーボディ〉がロンドン市長公安室(MOPAC)との財政的・組織的関係を断ち切り、上記の導きに沿って社会住宅と女性ビルを建設するよう、そしてコミュニティならびに国家的暴力・DV・性暴力のサバイバーの要求に応えるよう、尽力することを求める。

政府はさらなる刑務所の増設とポリシングの強化に投資しているが、私たちは知っている。これらは暴力を増大させるだけで、それを減らすことができるのは社会住宅と、家庭内暴力のすべてのサバイバーに対して十分な資金で提供される専門的サービスであることを。イズリントン区(イズリントン・ロンドン自治区)の社会住宅への入居順番待ちリストには、14000を超える世帯が連なっている。ホロウェイの敷地はこうしたサービスを提供するために使われねばならない。私たちは、私たちの要求が確実に満たされるよう、必要な限りずっと闘うつもりだ。

【訳者より:書式に関して】リンク・太字・改段落は原文を反映している。〔 〕内は訳者による補足である。


■参考
◇Sisters Uncut, 20170527, “Press release: Feminists occupy Holloway Prison to demand more domestic violence services”.=20170605 村上潔訳「[プレスリリース]フェミニストはDV被害者支援サービスの拡充を求めてホロウェイ刑務所を占拠する」arsvi.com
◇Sisters Uncut, n.d., “Feministo”.=20170220 村上潔訳「フェミニスト(Feministo)」arsvi.com
◇佐藤由美子×村上潔(司会:堅田香緒里) 20190531 「[トークセッション]オリンピックとジェントリフィケーション――ジェンダー・文化・アクティヴィズムの観点から」『支援』9: 151-181
◇村上潔 20190529 「佐藤由美子×村上潔「[トークセッション]オリンピックとジェントリフィケーション――ジェンダー・文化・アクティヴィズムの観点から」(『支援』Vol.9)に関する補足説明」反ジェントリフィケーション情報センター