ロンドンの夜、プリンセス・ノキアは「ラテン・ヴィレッジを守れ!」と叫んだ

2017/11/12 村上 潔

 2017年11月10日、ロンドン、〈エレクトリック・ブリクストン〉(Electric Brixton|http://electricbrixton.uk.com/)。
 プリンセス・ノキア(Princess Nokia|http://princessnokia.org/)は自らのライブ・ツアーでこのヴェニューに降り立った(https://www.residentadvisor.net/events/1003031)。
 そのショーの最中、彼女は演奏を中断し、ロンドンのフェミニスト・グループ〈ザ・ロンドン・ラティンクス(The London Latinxs)〉が作成した「#SaveLatinVillage」Tシャツを脇に抱え、観客に次のように語りかけた。

とても美しい、イギリスに渡った南米移民たちのコミュニティがある。
ここがその場所。
そこはいま取り壊される危機にある。
[キャプション:プリンセス・ノキアはロンドンのラテンアメリカ系住人のコミュニティにおける社会浄化(Social Cleansing)の問題について呼びかけた。]
彼ら・彼女たちはセーフ・スペースを作り出した。
そのコミュニティのなかでものを売るために、そして生活のために。
[キャプション:彼女はブリクストンでのショーを中断した。]
女性たち、ありがとう。
あなたたちが私のショーに来てくれたことに感謝します。
そしてあなたたちが私に何か発言してほしいと依頼してくれたことに感謝します。
[キャプション:彼女は横断的フェミニスト・グループ〈ザ・ロンドン・ラティンクス〉と話をした。]
彼女たちは「ラテン・ヴィレッジを守れ(#SaveLatinVillage)」というすばらしい理念をもっている。【筆者注:実際にはノキアはここで“Save Latina”(ラテンアメリカ系女性を守れ)と言っている。上記の訳は映像の字幕に基づく。】
彼女たちは、インナーシティのコミュニティへのジェントリフィケーション――それはこのような苦しみをもたらすものであること――に対する認識を広めようと努力している。
[キャプション:スピーチのなかで彼女はトッテナムのラテン・ヴィレッジにも言及した。そこは10年以上もジェントリフィケーションと闘っている。]
たいへんだよね。
あなたたちの苦しみはすごく感じる。
私は心からあなたたちを愛しています。
[キャプション:彼女はまた、観客たちに、イギリスにおけるラテンアメリカ系住人たちの生活を尊重するよう求めた。]
私は黒人のアフリカ人を祖先にもつラテンアメリカ系女性です。
もしあなたたち〔観客〕が私をリスペクトするというなら、ここに現実に存在するラテンアメリカ系住人のコミュニティをリスペクトしてください。
自分自身を教育して。
これは、声を必要としている、社会に取り上げられることの少ない人々の問題だと理解して。
もっと知識が必要。そして、もっと支援が必要。[拍手と歓声]
(ノキアと観客でコール)「Save Latin Village!(ラテン・ヴィレッジを守れ!)」

*翻訳出典:“Princess Nokia: London Latinx community is facing gentrification”(2017/11/11|gal-dem)https://www.facebook.com/galdemzine/videos/1317231041716318/

 〈ザ・ロンドン・ラティンクス〉のレポートによれば、彼女は観客に向けて、「連帯、可視性〔運動を可視化すること〕、そしてロンドンのラテン・アメリカ系住人のコミュニティに対する敬意が重要であることを語った。そこで彼女は「#SaveLatinVillage」キャンペーンに対する圧倒的な美しいエールを送ってくれた」(https://www.facebook.com/thelondonlatinxs/posts/1749581385114790)。
 会場の入口脇の壁には、〈ザ・ロンドン・ラティンクス〉のメンバーであるヴィクトリア・ロハス(Victoria Rojas)がやってくるノキアのために描いた「バリオへようこそ!(Welcome to the Barrio!)*バリオ:スペイン語を話す人々の居住区」のグラフィティが踊っていた(https://www.facebook.com/thelondonlatinxs/photos/p.1749582318448030/1749582318448030/)。
 プリンセス・ノキアは1992年、ニューヨーク生まれ。
 音楽的なベースはヒップホップだが、彼女はRiot Grrrlからも大きな影響を受けている。過去のライブでステージ上からフロアに「Girls to the Front!」と呼びかけたパフォーマンスは、それを象徴している。
 そして彼女は作品やライブ会場の内外で、WOC(Women of color=有色人種女性たち)、クィア・トランスの人々をエンパワーするメッセージを多く発信している。
 その当然の帰結として、彼女は世界中の若いフェミニストたちから絶大な支持を寄せられる存在となった。
 この夜起こったことは、ニューヨークを活動拠点とするノキアが、ロンドンのフェミニストたちと果たした美しい邂逅だ。
 歓待した主体は〈ザ・ロンドン・ラティンクス(The London Latinxs)〉。彼女たちについては以下を参照してほしい。

  • Usayd Younis & Cassie Quarless “London Latinxs: Building Affinity Groups, Fighting Oppression”, STRIKE! Issue 15 (MAR-APR 2016): 29.=村上潔訳 2017/07/11 「【翻訳】ロンドン・ラティンクス――アフィニティ・グループを作り、抑圧と闘う」http://www.arsvi.com/2010/20170711mk.htm
  • The London Latinxs “Resist Gentrification!” (April 9, 2017 | facebook)=村上潔訳 2017/06/21 「[アピール]ジェントリフィケーションに抵抗せよ!」http://www.arsvi.com/2010/20170621mk.htm
  • The London Latinxs “[Event] Salsa&Samba Shutdown PART II” (June 19, 2017 | facebook)=村上潔訳 2017/06/22 「[イベント]サルサ&サンバ・シャットダウン パート2」http://www.arsvi.com/2010/20170622mk.htm
  • 村上潔 2017/07/01 「ロンドンの若きラテンアメリカ系フェミニストは「ジェントリフィケーションに抵抗せよ!」と叫ぶ」反ジェントリフィケーション情報センター https://antigentrification.info/2017/07/02/20170701mk/

 彼女たちはその反ジェントリフィケーション運動のなかで、歌やダンス、パフォーマンスを積極的に活用してきた。自らのもつ文化の力と、それを共有し、歓びを分かち合うことによって、現実の課題に対峙する力を増幅させてきた。その彼女たちに、音楽を通して少女たち・WOC・クィアやトランスの人々をエンパワーしてきたノキアが「出会った」。そして眩く愛おしい「出来事」が起こった……。しかしこれは夢や偶然ではなく、必然だったのだろう。
 こうした、反ジェントリフィケーション運動における国境・ジャンルを越えたフェミニストたちの連帯のありようは、メディアで報じられることは少ない(いや、ほぼない)。しかしこのような精神的紐帯とそれに基づくコミュニケーションの過程・確認・共有にこそ、ジェントリフィケーションに対抗する諸戦線の潜勢力が凝縮されているのだということは、強く強調して認識しておかねばならないだろう。なぜなら、有色人種女性・移民女性、そして同様の属性のノンバイナリーの人々、といった存在(そのコミュニティ)は、どの都市においてもジェントリフィケーションの格好の「標的」となりうるからだ。それに対抗するには、地域共同体単位の全体行動だけではなく、女性ならびにノンバイナリーの人々による広く・強く・直接的な連帯関係の構築が何より重要となる。
 さて、はたしてプリンセス・ノキアが「Tokyo」に降り立ったとき、彼女は誰に向かって何と叫ぶのだろうか。ふとそんな考えが頭をかすめた。