用語解説(2):ジェントリフィケーションの第1波/第2波/第3波(ジェントリフィケーションの段階モデル)

2018/10/25 (H)

――ここでは、ハックワースとスミスが図示した「ジェントリフィケーションの段階モデル」*1)を紹介・解説したい。テキスト部分のみを訳出したが、提示された図式をおおよそは知ることができるだろう。この図式は、時代とともに変わりゆくジェントリフィケーションの様態を理解するうえで助けとなる。

*1)Hackworth, J. and Smith. N, ‘The changing state of gentrification’, Tijdschrift voor Economische en Sociale Geografir 22: 467-477, 2001.

――この図式的な解説から、まず、ジェントリフィケーションは単線的に進行したのではなく、経済の変動にあわせ周期的なリズムをもちつつ発展したことが読みとれる。ジェントリフィケーションは好況の時期に勢いを増し、1990年代までに少なくとも3つの波をもたらした。第1、第2、第3波と段階を経るごとに、それはいっそうグローバルな過程と化していった。また、それぞれの波は不況の時期によって区切られているが、これらの時期が「移行期」とされていることにも注目したい。ジェントリフィケーションが静まり返っているかのようにみえるこの時期に、次の段階へと向かう条件が設えられるわけだ。

――欧米の社会において「ジェントリフィケーション」の名が広く知られ、争われるようになったのは、「第2波」の時期である。日本の都市においても、この時期に「アーバンルネッサンス」のかけ声のもと都市開発が過熱した。この当時、「ジェントリフィケーション」という概念はまだ広く知られていなかったけれども、「地上げ」という言葉がひろく流布された。この言葉は、ジェントリフィケーションの基本論理である地代格差論を、大雑把とはいえ直観的につかみとるものだったのではないか。

――第3波の時期には、この過程はいっそう拡大してグローバルなものと化し、またそのなかで国家や自治体がこの過程に対してもつ関与の度合いは大きくなった。この点は、ネオリベラル・アーバニズムや都市企業家主義の台頭などの政治的変容とかかわる。さらに付け加えておくと、2000年代以降の時期のジェントリフィケーションは、「第4波」とも呼ばれている。この「第4波」の時代には、政府主導のジェントリフィケーション(State-led gentrification)という語が生まれ、国家や自治体の関与はいっそう深まりつつある。それとともに、オリンピックのようなメガイベントとジェントリフィケーションが、深くつながるようになった。これらの点については、のちに解説を加えていきたい。


<1968~1973年:第1の波>
自発的ジェントリフィケーション――1973年以前、この〔ジェントリフィケーションという〕過程は、合衆国北東部や西欧の小規模な近隣において、ほとんど孤立している。
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<1974~1978年:移行期>
ジェントリファイアーによる不動産の購入――ニューヨークなどの都市でデベロッパーや投資者は、不動産価値が低下したのを機に減価に晒された近隣の大部分を買い上げ、そうして1980年代にジェントリフィケーションが進行するための基盤がしつらえられた。
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<1979~1988年:第2の波>
ジェントリフィケーションの定着――この過程は、それまで資本が引揚げられてきた都心の近隣にしっかりと組み込まれた。1980年代のこの時期には、1973年以前のジェントリフィケーション経験とは対照的に、この過程はより小規模な都市や、さほどグローバル化されていない都市でもみられるようになる。ニューヨーク市では、アートコミュニティの存在感が居住向け建物のジェントリフィケーションと密に関係するケースが多々みられた。つまりそれらアートコミュニティの存在のおかげで、資本はソーホーやトライベッカやロワー・イーストサイドのような近隣へと、スムーズに流れ入ることができた。この時代には、最貧困の住民の立ち退きをめぐって、激しい政治闘争が巻き起こる。
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<1989~1993年:移行期>
ジェントリフィケーションの鈍化――不況により、ジェントリファイされつつある近隣やジェントリファイされた近隣への資本の流入は抑制された。このなかで、「脱ジェントリフィケーション」を公言する者や、この過程の反転が進行していると主張する者が現われた。
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<1994~1999年:第3の波>
ジェントリフィケーションの回帰――脱ジェントリフィケーションという予言は、やはり誇張だったようだ。というのも多くの近隣は、あいかわらずジェントリファイされつづけている。このほか都心から離れた近隣でも、初めてこの過程が現われ出している。また不況期を経た〔この時期の〕ジェントリフィケーションは、これまでの時代以上にいっそう深く大規模資本へと結びついているように思われる。大規模なデベロッパーは、しばしば国家や自治体の支援を受けながら、近隣全体の改造に乗り出している。