[詩]女と水と導火線――『月夜釜合戦』に寄せて

2018/01/12 村上 潔

広がる葦原
淀んだ水

ぬかるむ土
くすんだ空

女が立ち
しゃがみ込む

海と陸の境
水が浸食する世界

無名の命の生まれるところ
育む者はない
その女のほかに

手なずけられない女
庇護者をもたない子

それらは街の中心から弾き出される
誰からも厄介な存在として

女はしかし
見えない水脈を辿って反撃する
誰も気づかぬうちに
じわじわと
じっとりと
ずぶりと

男たちは奪い合う
土地を
鉄を
金を

女は育み再生する
湿気たマッチを
見も知らぬ子を
無数の眠る魂を

狼煙を上げるのではない

葦草と貯木につけられた湿った炎は
地下の導火線を伝い
凪いだ風に乗り
渇いた街を低温火傷させる

それが女の反攻
水の世界の奪還

いま時を越え
忘れられた命の生き直しが始まる

――
cf. 映画『月夜釜合戦』